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くすりの仕事図鑑 薬剤師の仕事  Vol.3 スポーツファーマシスト

スポーツファーマシストとは

アスリートはもちろんスポーツを楽しむすべての人に、薬の正しい使い方の指導や薬に関する教育、啓発活動を行う薬剤師の多くはスポーツファーマシストです。スポーツファーマシストの最も重要な仕事は「ドーピングからアスリートを守ること」です。

ドーピングとアンチ・ドーピング

そもそもドーピングとは何でしょうか。

魔法の薬で力をつけたヒーローがワルモノを退治……。物語の中ではよくあることですが、スポーツの世界では、対戦相手に勝つために“魔法の薬”を使うのは厳禁。ここで言う魔法の薬とは、筋肉を増やす、持久力を高めるといった競技能力を高める作用を持つ薬物のこと。薬物を使って意図的に自分が優位に立ち、勝利を得ようとする行為やその行為を隠すことを「ドーピング」と呼びます。

ドーピングが発覚すると競技成績は取り消され、原則として以後2年または4年間は競技会に参加できなくなります。それまでの努力が水の泡になるばかりではなく、薬物によるからだへのダメージが残ることも。またチームメイトや関係者、応援してくれる人たちの信頼や期待を裏切ることにもなります。しかし残念なことに「ドーピングで金メダルはく奪」といったニュースを目にすることは少なくありません。

そこでドーピングをゼロにすること、ドーピングを予防することを目的とする「アンチ・ドーピング」活動が行われるようになりました。1999年には世界アンチ・ドーピング機構(WADA)、2001年には日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が設立、ドーピング検査、教育・啓発活動などを行う体制が整備されました。

スポーツファーマシストになるには

薬剤師の資格をとったうえで、JADAが運営する「公認スポーツファーマシスト認定制度」事業の基礎講習と実務講習を受け、知識到達度確認試験に合格するとスポーツファーマシストの認定証が発行されます。資格を維持するためには毎年実務講習(インターネット上で勉強するe-ラーニング)を受ける必要があり、4年ごとに認定更新のための試験もあります。

2019年4月1日時点でスポーツファーマシストの認定者数は9,530人。スポーツファーマシストとして活躍している人の多くは、普段は病院や薬局の薬剤師として働いていて、業務の合間にスポーツファーマシストとしての仕事を行っているのが一般的です。

スポーツファーマシストの仕事内容は

冒頭に、スポーツファーマシストの最も重要な仕事は「ドーピングからアスリートを守ること」と紹介しました。なぜならスポーツファーマシストに特に期待されるのが、意図しないドーピング「うっかりドーピング」を防ぐことだからです。

病院で処方される薬はもとより、薬局で買える市販薬や栄養補助食品(サプリメント)には、ドーピングになってしまうために使用が認められない「ドーピング禁止薬物(以下「禁止物質」)」が含まれている場合があります。スポーツファーマシストは、アスリートが風邪をひいたりお腹をこわしたり、ケガをした場合などに使用する薬、または筋肉をつけるなどの目的で摂取するプロテインなどのサプリメントに禁止薬物が含まれていないかといった相談に応じ、適切な指導を行います。

メールや電話による相談のほか、直接薬局などに訪れた人の相談にものります。アンチ・ドーピングに関する最新の知識を駆使し、関連資料を調べ、薬などの販売元に問い合わせて回答することもあります。

また、教育・啓発活動も重要な役割の1つです。小中高校でのアンチ・ドーピング教育や、各競技団体の指導者への情報提供も行っています。アスリートの健康管理や治療を行うスポーツドクターのように、競技団体の要請を受けて競技会に帯同するようなスポーツファーマシストは現状ではごく少数ですが、将来的には医師や栄養士などと連携し、アスリートをサポートするメンバーとしての活躍の場が広がっていくと期待されます。

プロフェッショナルインタビュー Vol.3 スポーツファーマシスト

「薬の専門家として、スポーツに貢献し続けたい」

東京都内の薬局に勤めるスポーツファーマシスト
K・Tさん(40代・男性)

スポーツファーマシストになったきっかけは。

スポーツ全般が好きで、高校からずっとサッカー部に所属し、社会人になってからも高校のときのチームメイトらとチームを組んでリーグ戦に出るくらいサッカーに熱中していたのですが、大ケガをしてしまって。本格的なプレイはやめましたが、サッカーをはじめとするスポーツにずっとかかわっていきたい、選手たちの役に立ちたい。そう思っていたときスポーツファーマシストのことを知り、資格を取りました。

スポーツファーマシストとしての主な仕事は。

メールでの問い合わせ対応が一番多いですね。公認スポーツファーマシストのウェブサイトにメールアドレスを公開しているので。競技団体の指導者やトレーナー、選手本人からメールが来ることもあります。「病院で処方されたこの薬、試合の何日前までならのんでもいいか」「このサプリメントはドーピングにならないか」というような内容です。直接薬局に相談に来られる人もいますね。海外の方がやってくることもあるので、英語で対応することもあります。

また、競技連盟の医事委員会の委員としての仕事もあります。2019年7月に発足したばかりの委員会なので、今は主にサプリメントの使用可否に関する判定や、薬剤師が問い合わせに対応する際のフローチャート作りなどを行っています。

スポーツファーマシストの活動はボランティアなのか。やりがいは。

問い合わせ対応は、メールでも対面でも無償です。「風邪を引いた」と薬局に来られた方の相談にのるときと同じで無償になります。集客につながるという二次的なメリットはありますが。何よりも、自分のアドバイスが選手の役に立てたらうれしいです。

たとえば競技中にのんでよいはずの医薬品でも、パッケージの残りは競技会が終わるまで保管しておくようにと伝えます。ドーピング検査に引っかかったとき、製造上の何らかのトラブルで禁止薬物が混入していたせいなのか検証できますから。原因が証明できれば、選手としての資格停止期間が短くなることもあります。自分の活動がこうした知識を広めるための一助となり、いつかどこかで選手が救われていればいいなと思います。

どういう人がスポーツファーマシストに向いていますか。

スポーツファーマシスト全員に共通するのはスポーツが好きということでしょう。薬剤師としての専門性を生かし、いくつになってもスポーツとのかかわりを持ち続けたい、選手をサポートし続けたいという気持ちを持てる人が向いています。

今後はどのような仕事をしていきたいですか。

“口から入るもの”全般をコントロールしてアスリートをより強くする。そのために栄養士や医師とも連携し、食事指導からサプリメントや薬の管理まで、幅広くかかわっていければいいなと思います。

また早期からのアンチ・ドーピング教育の必要性を感じています。競技種目によっては中学生くらいからオリンピックの代表になるような子もいますから。そういう子どもたちがドーピングのことで頭を悩ませなくてすむように、小学生のころからしっかりと教育する必要があります。そういう仕組み作りにも携わっていきたいですね。

1日の仕事スケジュールK・Tさんの場合

  • 出勤前

    製薬会社やサプリメントを販売する会社などにドーピング関連の問い合わせをすることもある

  • 10:30

    薬局に出勤、処方せんを持ってきた人や市販薬を買いに来た人への対応を行う

  • 12:00

    14:00

    ほかのスタッフと交代で昼休み、
    ドーピングに関する問い合わせがないかなどメールをチェックする

  • 午後

    午前と同様の業務、薬剤師会の会議などに出かけることもある

  • 19:30

    退勤

  • 問い合わせに回答するための調べものをし、回答する

監修:亀井美和子 (帝京平成大学薬学部学部長・教授)