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2020年04月21日印刷はこちらから研究開発

PfRipr5熱帯熱マラリア発病阻止ワクチンの作用メカニズムを解明―マラリアワクチン開発を加速―

1.背景

マラリアは、蚊で媒介される寄生虫病で、2005年頃から減少傾向に転じましたが、2018年には依然として世界で2億人以上がマラリアに罹り、死亡者数も40万人以上に及んでいます(出典「World Malaria Report 2019」)。マラリア対策の切り札としてワクチン開発がこの40年間以上取り組まれてきましたが、蚊からヒトへの感染を防ぐ第一世代のマラリア感染阻止ワクチンの効果は約30%と低く、より有効な次世代マラリアワクチンが切望されています。一方、マラリア原虫の赤血球への侵入を阻害することによってマラリアの発病を防ぐ発病阻止ワクチンは、流行地におけるマラリア防御の切り札と考えられていますが、ワクチン抗原に対する流行地マラリア原虫の抗原多型のため、研究開発が進んでいませんでした。最近私達は、熱帯熱マラリア原虫由来の新規の発病阻止ワクチン候補抗原PfRiprには抗原多型が少ないことを見出し、本抗原を用いたワクチンができれば高い有効性が期待できると考えていました。しかし、PfRiprはワクチンとしてタンパク質全体を合成するにはサイズが大きすぎる(1086個のアミノ酸から構成)ため、そのワクチン開発のためには、PfRiprのワクチン至適部位の探索と、ワクチン開発に必須の作用メカニズムの解明が課題となっていました。

2.研究成果

本研究は、1)PfRipr全長中のワクチン至適部位を明らかにすること、及び2)PfRiprワクチンの作用メカニズムの解明のため、PfRiprと相互作用する赤血球タンパク質を探索することを目的に実施しました。先ず、PfRipr全長から約200個のアミノ酸から構成される11種類の分断体タンパク質をコムギ無細胞タンパク質合成法により作製し(図1A)、それぞれに対するラット抗体の熱帯熱マラリア原虫赤血球侵入阻害活性を測定しました。その結果PfRipr全長中の侵入阻害活性部位はPfRipr5領域の1ヶ所のみに存在し、PfRipr5抗体はPfRipr全長抗体と同等以上の優れた侵入阻害活性を示しました(図1B)。したがって、PfRipr5が有望な熱帯熱マラリア発病阻止ワクチンであることが判りました。次に、コムギ無細胞タンパク質合成法により主要なヒト赤血球表面タンパク質を13種類作製し、PfRiprとのタンパク質相互作用を探索した結果、組換えPfRiprタンパク質がSEMA7A組換えタンパク質と結合し、さらに赤血球のSEMA7Aタンパク質と結合することを見出しました(図2A、赤矢頭)。さらに、PfRipr5に対する抗体は、PfRipr-SEMA7Aタンパク質相互作用を阻害しました(図2B)。したがって、PfRipr5ワクチンの作用メカニズムとしては、PfRipr5抗体がマラリア原虫PfRiprと赤血球SEMA7Aとのタンパク質相互作用を阻害することにより、ワクチン効果を発揮していることが示唆されました(図3)。

3.波及効果

現在非臨床開発中のPfRipr5マラリアワクチンの効果を評価する際、これまでの動物実験に加えてin vitroにおけるPfRiprタンパク質とSEMA7Aタンパク質との相互作用の阻害試験も実施することが可能となり、PfRipr5ワクチン開発を加速することができます。

4.研究体制と支援について

本研究は、愛媛大学プロテオサイエンスセンターと大日本住友製薬株式会社との共同研究としておこなわれました。また、研究の実施にあたっては、日本学術振興会科学研究費および大日本住友製薬株式会社の支援を受けました。

5.論文タイトルと著者

タイトル:Antibodies against a short region of PfRipr inhibit Plasmodium falciparum merozoite invasion and PfRipr interaction with Rh5 and SEMA7A
(和訳)熱帯熱マラリア原虫PfRiprの赤血球側のレセプタータンパク質SEMA7Aの発見とそれらの結合を阻害し原虫の赤血球侵入阻害抗体を誘導するPfRiprの最小領域を決定
著 者:長岡ひかる(愛媛大学)、カノイ・バーナード(愛媛大学)、ンテゲ・エドワード(愛媛大学:研究当時)、青木正光(大日本住友製薬)、福島晃久(大日本住友製薬)、坪井敬文(愛媛大学)、高島英造(愛媛大学)
掲載誌:Scientific Reports
Journal link: https://www.nature.com/articles/s41598-020-63611-6
掲載日:2020年4月20日(月)18:00(日本時間)

【用語説明】

○コムギ無細胞タンパク質合成法

愛媛大学の遠藤弥重太特別栄誉教授らによって開発されたコムギ胚芽抽出液を用いた in vitroタンパク質合成システム。タンパク質合成阻害物質を除去したコムギ胚芽抽出液に、アミノ酸などの基質と目的mRNA を加えるだけで、微生物から高等生物、さらに人工タンパク質に至るまで安定して高効率にタンパク質を合成する技術。マラリア原虫由来の組換えタンパク質の合成効率は特に優れている。

○PfRipr5熱帯熱マラリア発病阻止ワクチンプロジェクト

PfRipr5熱帯熱マラリア発病阻止ワクチンプロジェクトは、現在愛媛大学、European Vaccine Initiative(ドイツ、EVI)およびiBET(ポルトガル)と共同で、「新規赤血球期マラリアワクチンの開発プロジェクト」として、2019年4月から2021年3月まで公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(以下「GHIT Fund」)の助成を受けて推進しているものです。大日本住友製薬は、ワクチン開発に関わる免疫アジュバント技術の研究開発経験に基づいて、このプロジェクトをサポートしています。
PfRipr5マラリア発病阻止ワクチンプロジェクトの詳細については、
https://www.ghitfund.org/investment/portfoliodetail/detail/139/jpをご覧ください。

○大日本住友製薬株式会社

大日本住友製薬は、新規ワクチンアジュバント(TLR7アジュバント)の開発者で、「新規赤血球期マラリアワクチンの開発プロジェクト」に加えて、2020年4月から、愛媛大学と共同で熱帯熱マラリア伝搬阻止ワクチンプロジェクトにもGHIT Fundの助成を得て取り組み、アジュバント製剤の開発や非臨床評価を担当しています。
HP:https://www.ds-pharma.co.jp

○公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金 (GHIT Fund:ジーヒット・ファンド)

GHIT Fundは、日本で初めての日本政府、複数の製薬会社、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム、国連開発計画(UNDP)が参画する国際的な官民ファンドです。世界の最貧困層の健康を脅かすマラリア、結核、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症と闘うための新薬開発への投資、ならびにポートフォリオ・マネジメントを行っています。治療薬、ワクチン、診断薬を開発するために、GHIT Fundは日本の製薬企業、大学、研究機関の製品開発への参画と、海外の機関との連携を促進しています。詳細については、https://www.ghitfund.orgをご覧ください。

○European Vaccine Initiative(EVI:ヨーロピアン・ワクチン・イニシアティブ)

EVIは、貧困による疾患や新たな感染症に対するワクチンの開発を支援するNPO団体であり、「新規赤血球期マラリアワクチンの開発プロジェクト」全体の管理とアジュバント(免疫増強剤)を用いた製剤化を担当しています。
HP:http://www.euvaccine.eu

○iBET(アイベット)

iBETは、バイオテクノロジーおよびライフサイエンス分野における非営利の研究集約型企業です。iBETは1989年に設立され、Health&PharmaおよびFood&Healthに関連する分野での連携を確立することにより、大学と産業界の研究を橋渡ししています。主な専門分野は、ワクチン候補である組み換えタンパク質およびウイルス様粒子などの複雑で機能性バイオ医薬品の製造および精製などで、プロセスのモニタリングおよび制御、製品の特性評価のための分析およびツールの開発にも取り組んでいます。
iBETは「新規赤血球期マラリアワクチンの開発プロジェクト」において、ワクチンに使用するための高品質なPfRipr 5タンパク質の合成を担当しています。
HP:http://www.ibet.pt

以上