HOME > すこやかコンパス > くすりのいろは > 薬ができるまでの、長い道のり Vol.2

HOME > すこやかコンパス > くすりのいろは > 薬ができるまでの、長い道のり Vol.2

薬ができるまでの、長い道のり Vol.2 基礎研究から非臨床試験まで

スコッピィ君:薬のもとって何だろう?

空中、水中、土の中。あらゆるところに、「これは効きそう」という薬の“もと”となる成分は存在します。たとえば2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学特別栄誉教授大村智博士は、土の中から発見した新種の放線菌をもとに、寄生虫が引き起こす感染症の薬「イベルメクチン」の開発につなげました。

しかしこのように、自然界に存在する無数の物質から、有効性が高くて安全に使える薬のもとを見つけてくるには、途方もない努力と根気、才覚が必要と言えるでしょう。

スパコンでシミュレーション

現在では、薬の“もと”になりそうな化合物を集めた「化合物ライブラリー」を出発点とするのが主流です。数百万もの化合物の中から、薬の候補となる化合物(以下「候補化合物」)を絞り込んでいきます。この絞り込みは、コンピュータによる模擬試験「シミュレーション」として行われることもあります。

効かせたいからだの部位や病原体の情報などをもとに、絞り込まれた候補化合物がそのターゲットにどのくらいの強さでくっつくかといったことも、シミュレーションで調べることができます。1つ1つの候補化合物について、これらのことを調べるには莫大な量の計算が必要なため、計算処理能力の高いスーパーコンピュータ(以下「スパコン」)を用いて行うようにもなりました。シミュレーションの具体例については、くすりの挑戦 インシリコ創薬~スーパーコンピュータ「京」の活用~を参照してください。

スパコンを使うようになったのは1990年代からですが、2012年には1秒間に1京回(京は1億の1億倍)もの計算ができるスパコン「京(けい)」が登場。京の利用は、基礎研究に必要な期間の大幅な短縮、シミュレーションの精度アップを実現しました。

このようにして候補化合物を絞り込むまでが基礎研究です。

スパコンでシミュレーション

まはなちゃん:有効性と安全性、 スコッピィ君:どちらもしっかり確認しないと!

ヒトの細胞や動物で試験

次に行うのは、人工的に育てたヒトの細胞や動物を対象とする「非臨床試験」です。ヒトを対象に行う最終段階の試験、「臨床試験」との対比で、こう呼びます。ここで確認すべきポイントは、1. 狙い通りの効きめはあるのか、2. 毒性や発がん性はないか、3. 効かせたい場所に届き、役目を終えたら体外へと出ていくか……の、主に3つです。

行う試験の内容について、大まかな流れを図にまとめました。このほか、候補化合物の物質としての安定性や水への溶けやすさなど、最終的に薬になったときに重要になってくることも調べます。

まはなちゃん:有効性と安全性、 スコッピィ君:どちらもしっかり確認しないと!

非臨床試験の流れの一例

参考:久能祐子:創薬科学入門-薬はどのようにつくられる? オーム社:24, 2011

ヒト化実験動物と病態モデル動物

動物試験はラットやマウスのような小動物から始め、ウサギやイヌ、サル、ブタ、ヤギなどを用いることもあります。どれもヒトと同じ哺乳類ではありますが、動物では効いたけれどヒトには効かなかったり、動物では確認されなかった副作用がヒトで起きたり……ということも、少なくありません。

なるべくヒトに近い状態の動物で試験を行うために、「ヒト化実験動物」を使うこともあります。ヒト化実験動物は、大きく2種類に分けられます。1つは、ヒトの臓器や組織、細胞などを移植して定着させた動物、もう1つは、遺伝子の1部がヒトの遺伝子に置き換わっていて、限定的ではあるものの、ヒトの体内で起きる現象が再現できる動物です。それぞれの特性を生かした試験が行われています。

また、狙い通りの病気に効くかどうかを確かめるための「病態モデル動物」というのもあります。血圧の高いラットを選んで交配して作った高血圧を起こしやすいラット、遺伝子変異によって肥満や糖尿病になりやすくしたマウス、ストレスを与えて胃潰瘍にしたマウスやラット……などがあります。

まはなちゃん:iPS細胞を使えば、今までは難しかった試験もできそう!

iPS細胞で「種差の壁」を乗り越える

それでもやはり、動物で起きたことがヒトで起きるとは限らないという「種差の壁」を乗り越えるのは、なかなか困難と言えます。そこで、注目を集めているのがiPS細胞です。

iPS細胞は、皮膚の細胞など採取しやすいヒトの細胞をもとに、からだにあるさまざまな組織や臓器の細胞になれて、しかもほぼ無限に増やすことができます。ヒトから採取しにくい心臓や肝臓、腎臓などの細胞を作り、薬の有効性や安全性を調べることも可能になってきた、というわけです。

iPS細胞の利用によって、創薬の早期の段階から正確で簡便な評価が可能になり、開発中止のリスクを減らせるのではないかと期待が持たれています。

まはなちゃん:iPS細胞を使えば、今までは難しかった試験もできそう!

解説

GMP3原則

買ってきた野菜や果物の一部が傷んでいたら、そこだけ取り除いて食べたり、お店にいって取り換えてもらったりできるよね。でも薬はどうだろう?外観からは、有効成分が必要量入っているか、変質していないか、異物や微生物で汚染されていないか……なんて、分からないことがほとんどだよ。

だからこそ、誰の手元に届いた薬も、安心して安全に使える、高品質のものでなくてはならない。そこで、医薬品を製造するときに製薬会社が守るべきルールとして「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」、GMP(Good Manufacturing Practice)があるんだ。大きな柱として掲げられている右の3つを「GMP3原則」と呼ぶよ。

これらに基づき、「行うべき手順をマニュアル化して、適切に行われたかどうかチェックする」「衛生的な設備、環境下で製造する」「原料や中間製品、最終製品の品質を調べる」……などなど、たくさんの取り組みが行われているんだ。

開発段階で有効性や安全性が確認された通りのものを製造し続けるというのは、製薬会社の使命とも言えるよ。

GMP3原則 1:人による間違いを最小限にする 2:医薬品の汚染や品質低下を防ぐ 3:高い品質を保証する仕組みをつくる

監修:加藤哲太(東京薬科大学薬学部教授)