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インシリコ創薬~スパコン「京」の活用~ 待ち望まれる新薬を患者さんへ スーパーコンピュータが未来の薬を創る!

お薬が誕生するまで

新しい薬のもとを見つけ、その効果や安全性を調べる研究……というと、白衣を着た研究者が実験室で試験管を振ったり、顕微鏡をのぞいたりしているような場面を思い浮かべるかもしれません。しかし現在では、このプロセスをコンピュータの中で行う技術が飛躍的に発展し、創薬のプロセスが大きく変化しようとしています。

お薬が誕生するまで

なぜ、創薬にスーパーコンピュータ?「インシリコ創薬」とは

これまでになかった薬を創り出す一連の過程を「創薬」と呼びますが、創薬にコンピュータを用いることを「インシリコ創薬」と呼びます。コンピュータの心臓部となる計算装置「CPU」は、一般的にシリコン(ケイ素)でできていて、インシリコ(in silico)というのは「シリコンの中で」という意味。すなわちこれは「コンピュータを用いて」という意味なのです。

でも、コンピュータというのは巨大な計算装置。口からのんだり、からだにぬったり、注射したりするような薬を"計算で創る"ってどういうことなのでしょう? しかも現在、インシリコ創薬の中核を担うのは、とてつもなく計算処理能力が高い「スーパーコンピュータ(以下「スパコン」)です。なぜコンピュータが、しかもスパコンが必要なのでしょうか。

成功確率アップと開発期間短縮が目的

薬の候補となる化合物(以下「候補化合物」)のうち、実際に薬として世の中に登場するのは約3万分の1です※1。「期待していた効果が十分に得られなかった」「効果はあるけれど副作用も強い」「効かせたい場所にうまく届かない」……といった理由で、ほとんどの候補化合物が不合格になってしまうのです。
このような検討を重ね、1つの薬が世に出るまでには9~17年もの長い時間が必要とされます※2。

候補化合物の1つ1つについて、実際に効くか、安全性に問題はないかを実験で確かめていくのは、かなりの労力と時間を必要とします。そこでコンピュータの出番です。候補化合物の構造や作用についての情報、効かせたいからだの部位や病原体の情報などをもとに、計算による模擬実験「シミュレーション」を行います。そうやって絞り込んだ、より有望な候補化合物だけを実際の実験で調べれば、成功確率が上がり、開発期間の短縮にもつながります。

「京」で広がる創薬の世界

候補化合物が効くかどうかのシミュレーションは、コンピュータを使って、候補化合物とそのターゲット(多くの場合たんぱく質)がくっつくかどうかを分子レベルで調べることで行います。このようなシミュレーションを十分に行うには、私たちが普段使っているようなパソコンはもとより、従来のスパコンでも太刀打ちできない、膨大な量の計算を行う必要があります。

従来のスパコンでは、「くっつくかどうか」はわかっても「どのくらいの強さでくっつくか」まで調べるのが難しかったのです。
実はこの結合の強さこそが、薬の効きを左右する重要な要素なのですが、仮にこれを従来のスパコンで計算するとしたら、1つ調べるのに丸1日もかかり、現実的ではありませんでした。

そもそもスパコンが商用目的に使われるようになったのは約半世紀前の1964年で、創薬への応用が始まったのは1990年代。
ほんの20余年前です。
スパコンの計算性能は、毎年2倍のペースで向上し、2011年、当時のパソコンの50万倍以上の計算性能を持つ日本最高性能※3のスパコン「京(けい)」が誕生、2012年9月に本格稼働しました。

「京」の登場によって、インシリコ創薬は、飛躍的な進歩を遂げようとしています。「京」なら、からだの中にある水やその他の物質の影響についても計算し、結合の強さや、結合したあとの変化など、実際に生体内で起こりそうなことまで詳しくシミュレーションできます。

「京」を用いる3大メリット

シュミレーションによって、候補化合物の絞込みが十分に行え、開発期間の短縮が見込めます。また。短縮された時間を、新しい候補化合物を見出すために使うことができます。

「京」の登場前

「京」の登場後

スコッピィ

1秒間に1京回の計算が可能

提供:(独)理化学研究所

「京」は、体格のいい大人が中にすっぽりと入ってしまうような大きさの箱に、CPUが102個(うち計算に使われるCPUは96個)詰まったものが864台つらなった構造をしています。

96×864=8万2944個のCPUで計算を分担し、1秒間に1京回の計算ができます。京は兆の1万倍、1億の1億倍。何だか想像がつかないほどの数ですよね。これは、例えば日本の人口約1億3000万人が1秒に1回の計算を休まずに行っても約2年半かかる計算を、たったの1秒でやってしまう、ということなのです。

「京」は創薬のほか、車が衝突したとき、どこにどのような損傷が起きるのかを調べる安全性能試験、津波が起きたら、どの建物がどのように壊れるかを調べる防災目的の試験などにも使われています。コンピュータの中で、あたかも現実に起こっているかのように再現できる、それがスパコンを使ったシミュ―レーションの素晴らしいところであり、1秒間に1京回もの計算ができる「京」だからこそ実現できること、と言えます。

オーダーメイドの薬も可能に?!

「京」は、従来から行ってきた創薬のプロセスを、より速く、より確実にするだけではありません。これまでにない方法で新しい薬を創る、有力な武器になります。例えば、ある病気の原因となると考えられるたんぱく質に作用する化合物を、コンピュータ上で設計することも可能となります。また、すでに何らかの病気の薬として使われている化合物が、からだの中のいろいろな場所で、どのように作用しているかをシミュレーションしてみれば、ほかの病気の薬として使える可能性が生まれます。同様にして、副作用を引き起こしているのは、からだのこの部分に作用しているからではないか? といったこともわかってきます。

また、ある薬がよく効いたり、あまり効かなかったりするのは、個体差が影響していると考えられています。そこで、個体差を決めている遺伝子の情報を解析し、人それぞれにぴったり合う薬を創る、いわばオーダーメイドの薬を創るようなことも、将来的には可能になっていくでしょう。

「京」は現在、日本で1位、世界では4位の計算性能を持つスパコンです※4。これからも、日本はもちろん世界各国でスパコンの開発が進んでいきます。日本では、2020年ごろまでに「京」の100倍の計算性能を持つスパコンの開発を目指しているそうです※5。
実現すれば、「京」で40日かかっていた計算が、10時間でできるようになるのです。
そうなれば、創薬の可能性は、さらに広がっていくことでしょう。

  • ※1 日本製薬工業協会:DATA BOOK:46, 2012
  • ※2 日本製薬工業協会:製薬協ガイド2012-2013:10-13, 2012
  • ※3 2013年11月時点
  • ※4 TOP500 Supercomputer Sites :Top500 List-June 2013(英語)
  • ※5 文部科学省:今後の HPCI 計画推進の在り方について(中間報告):36, 2013年6月25日

大日本住友製薬から

「京」の利用は民間企業でトップがんや精神疾患向けの新薬候補を探索

2012年9月に本格稼働した「京」は、企業や個人の研究者による利用も可能になりました。大日本住友製薬は2013年度、企業の中ではトップの利用枠を獲得し、新薬の開発に「京」を利用しています※6。

現在、抗がん剤や精神疾患の治療薬を中心に、候補化合物の探索を進めています。「京」の計算性能は自社のスパコンの数十倍。細かなシミュレーションも短時間で行えるので、1日に多くの候補化合物を解析できます。計算性能に応じた新たな創薬のプロセスを採用することで、3年から3年半かかっていた候補化合物の絞り込みが、2年半程度でできると見込んでいます。

創薬に必要な時間を1年間短縮する……。それは、別の、新しい創薬のためにその1年間を使うことができるようになるということであり、さらには、その1年間で失われるかもしれない多くの命を救うことにつながるという、とても意義深いことと考えます。有益な薬を迅速に創るために、大日本住友製薬の挑戦は続きます。

※6「京」の利用については、(独)理化学研究所のウェブサイトでも紹介されています。

「京」を使うと候補化合物の解析が1年間も短縮できるんだね。