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細胞医薬品が、医療を変える

医療の進歩によって多くの命が救えるようになりましたが、なかなか治らない病気もあれば、ケガで失われたからだの一部やその機能が、どうしてももと通りにはならないということも、たくさんあります。

そんな病気やケガを克服するための新たな薬として注目を集めているのが「細胞医薬品」です。細胞そのものを患部に移植し、正常な働きをする組織や臓器に「再生」させます。これが再生医療と呼ばれる治療法です。移植された細胞は、失われた細胞の代わりに働いたり、弱った細胞を元気にしたりすることで、傷ついた組織や臓器が、もと通りの機能をとり戻すように働きかけます。

スコッピィ:「治らない」を「治る」に変える!

4コマ

臓器移植が困難な部位がある

似たような治療法として、細胞の“塊”である臓器の一部や全部を入れ替える臓器移植を思い浮かべるかもしれません。心臓や肝臓、腎臓などの臓器移植は、多くの命を救ってきました。しかし、たくさんの神経細胞が複雑につながり合って機能する脳や脊髄、脳と神経でつながっていなければ視る力を失う眼の網膜のように、“とり替える”という方法では、うまく機能が回復しない部位が残されています。

特に脳や脊髄の「中枢神経」は、20世紀の終わりごろまで、一度ケガなどで切れたり壊れたりしたら、二度と再生しないと考えられてきました。実際に脳梗塞、脊髄損傷、パーキンソン病をはじめ、中枢神経が損傷される病気はなかなか治りません。

臓器移植が困難な部位がある

まはなちゃん:iPS細胞なら論理的な問題もクリアできるのね

iPS細胞で進む細胞医薬品の研究

中枢神経が損傷を受ける病気やケガも、なんとか治せないものか……と研究が続く中、私たちのからだの中には、必要に応じていろいろな臓器の細胞に変わる力をもつ「幹細胞」という細胞があることが分かってきました。このことから、損傷を受けた中枢神経細胞であっても、幹細胞を使えば再生できるのではないかと研究が進みました。

まずは、もとから各臓器の中にあり、その臓器細胞になる「体性幹細胞」が発見され、その後、人の受精卵から、たくさん増やせて、どのような細胞にもなれる「胚性幹細胞(ES細胞)」が作られ、研究に利用されました。しかしES細胞は命のもとである受精卵を壊して作るところに問題(倫理的な問題)がありました。

細胞医薬品の開発において、大きな転機となったのは「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の発明と言えるでしょう。ES細胞のように増やせて、さまざまな組織や臓器を作ることができます。しかもiPS細胞は、皮膚などの細胞から作るので、倫理的な問題がありません。iPS細胞の登場により、細胞医薬品の研究は格段に進みました。iPS細胞については、くすりの挑戦 iPS細胞でつくる、薬の未来も参考にしてください。

下の表に、細胞医薬品の原料としての開発が進められているこれら幹細胞の特徴をまとめます。

まはなちゃん:iPS細胞なら倫理的な問題もクリアできるのね

細胞医薬品の原料となる幹細胞の特徴

細胞医薬品の働き方は2タイプ

細胞医薬品は、からだに移植したあと、薬として働く仕組みにより2つのタイプに分けられます。まず、移植した細胞が出すたんぱく質などの因子が機能回復やからだの再生に役立つタイプ。もう1つは移植した細胞がそのまま生着し、失われた細胞や組織に代わって機能するタイプ。移植治療というとこちらのタイプをイメージする人が多いと思います。

ここからは、大日本住友製薬が現在開発を進めている細胞医薬品を例に、移植細胞が薬として働く仕組みについて説明しましょう。

スコッピィ:「因子放出タイプ」と「そのまま生着タイプ」だね

脳梗塞後の後遺症の薬の開発

移植した細胞が因子を放出するタイプでは、体性幹細胞の一種で、骨や血管、心筋などの細胞になる「間葉系幹細胞」と呼ぶ細胞から作られ、慢性期脳梗塞の治療薬として共同開発中の細胞があります。健康な人から、骨の中心部にある骨髄の細胞を採取し、培養・加工して作ります。

脳梗塞は、脳内の血管が詰まり、酸素や栄養が十分に届かなくなるために脳細胞が死んでいく病気です。重度の場合は死に至り、命が助かったとしても手足が思うように動かせない、うまくしゃべれない……といった、麻痺の後遺症を残すことがあります。

後遺症に悩まされる患者さんの患部に共同開発中の細胞を移植すると、完全に死んでしまった細胞はもとには戻りませんが、その周囲の細胞が移植した細胞の出す因子によって元気をとり戻し、失われた機能を回復へと向かわせます。この細胞医薬品は現在アメリカでヒトに対する臨床試験が行われているところです。

脳梗塞後の後遺症の薬(SB623)

同じく脳に移植する細胞医薬品としては、パーキンソン病の薬を開発しています。こちらは移植した細胞が失われた細胞に代わって活躍するタイプです。

パーキンソン病は、ドパミンという神経回路間の伝達に使われる物質を作りだす「ドパミン神経細胞」だけが死んでいき、手足の震えや筋肉のこわばりから、からだの動きが悪くなってしまう病気です。

そこで、健康な人の細胞から作ったiPS細胞を、ドパミン神経細胞になる一歩手前の細胞に育てて患部に移植します。移植した細胞は生着し、やがてドパミン神経細胞へと成長してもとからある神経細胞とつながり、本来あるべき神経ネットワークを作ってくれるのです。

パーキンソン病の薬

加齢黄斑変性の薬

視る力をとり戻す細胞医薬品

眼は脳と視神経でつながって、ものを見るということをしているので、中枢神経の一部といえます。眼の中でも光の強さや色の情報を脳に送る役割をする「網膜」はとても重要です。網膜の病気に「加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)」があります。この病気は網膜組織の一番外側の層である「網膜色素上皮」の機能が衰え、徐々に視力が失われていく病気です。欧米では失明原因の第1位、日本では同4位。50歳以上の人の約1%がかかっている病気で、加齢とともに患者数が増えます。

この病気の治療には、失われた網膜色素上皮の代わりになる新しい網膜色素上皮を作って移植することを考えています。2014年、この病気の患者さんの細胞から作ったiPS細胞を網膜色素上皮細胞に育てて、患者さん本人の網膜に移植する治療、すなわちiPS細胞を使った再生医療に世界で初めて成功したという、大きなニュースがありました。私たちは、この治療法をより多くの患者さんが受けられるよう、健康なヒトの細胞から作ったiPS細胞を使って細胞医薬品にする研究開発を行っています(下コラム参照)。

加齢黄斑変性の薬

眼球そのものを作り、移植の材料に

加齢黄斑変性と同様、進行すると視力を失う「網膜色素変性」を治療するための細胞医薬品も開発中です。網膜色素変性は、網膜にある光を感じるために必要な「視細胞」と呼ぶ神経細胞がなくなる病気で、有効な治療法がないのが現状です。

視細胞は、一層の細胞でできている網膜色素上皮とは違い、立体的な層構造をもつ網膜の中に組み込まれ、他の細胞と連絡することにより機能する細胞です。そのため新たに立体的な網膜を作り、一部をそのまま移植する治療が有効と考えられます。そこで、健康な人のiPS細胞からヒトと同じ構造の網膜をもつ“ミニチュアの眼球”を作り、視細胞を含む網膜の部分だけをとり出して移植するということを計画しています。これも移植した細胞が失われた細胞に代わって活躍するタイプですが、単なる細胞の移植ではなく、異なる細胞が立体的に組み合わさった組織の移植に近い、より進んだ細胞医薬品と言えます。

さゆちゃん:薬を作る上で欠かせない存在になっているのね

一部はすでに患者さんを対象に試験を進めているよ!

iPS細胞が薬になる日は近い

皆さんは、細胞医薬品が実現するのはまだまだ遠い将来なのでは?と感じているもしれません。しかし、大日本住友製薬では、これまで説明したように、他の企業や研究機関と連携し、一部はすでに患者さんを対象とする試験を進めていたり、その他もできるだけ早くヒトでの臨床試験を開始できるよう研究開発を急いでいます。

また、細胞医薬品には今までの薬にはないスゴイ力があることが分かったと思います。今まで薬がなかった病気やケガに苦しむ患者さんに、細胞医薬品を使った全く新しい治療法を届けることができる日は、そう遠くないはずです。

一部はすでに患者さんを対象に試験を進めているよ!

2コマ

コラム

細胞医薬品の自家移植と他家移植

2014年9月、理化学研究所などのチームは、加齢黄斑変性の患者さんの細胞から作ったiPS細胞をもとに、シート状の網膜色素上皮細胞を作って、その患者さん本人に移植するという手術を世界で初めて行いました。この方法は、患者さん自身の細胞から作った細胞を移植するので「自家移植」と呼びます。

細胞医薬品の実用化に向けた貴重な一歩となりましたが、自家移植というのは“オーダーメード”の治療法なので、時間も費用もかかります。多くの患者さんに使えるようにするには、従来の医薬品同様、必要なときに必要なだけ使えるようにしておかなくてはなりません。

健康なヒトの細胞から作ったiPS細胞をもとにした細胞を使うのは「他家移植」です。あらかじめ、このiPS細胞を凍らせて保存しておけば、いつでも必要なときにとかして培養し、目的の細胞に育て始めることができます。安全のための検査も十分にできますし、いつも同じ細胞を原料に使うので費用も安く済みます。大日本住友製薬が現在開発中の細胞医薬品は、いずれも他家移植のためのものです。

自家移植と他家移植については、くすりの挑戦 iPS細胞でつくる、薬の未来も参考にしてください。

多くの患者さんに使える「他家移植」のための細胞医薬品を開発中です